難削材の見積依頼が2週間放置される理由
チタンやインコネルを加工する会社は、仕事に困っていません。見積依頼が届くと、担当者はおよそ90秒で、今すぐ見積るか、後回しにするか、黙って見送るかを決めます。
不完全な資料は山の下のほうへ回されます。失礼だからではありません。ニッケル合金の部品をきちんと見積るには、技術者が2〜4時間をかける必要があり、答えより疑問のほうが多い図面にその時間を割く見積担当者はいないからです。
その90秒で実際に確認されることを、以下にまとめます。
1. PDFだけでなく3Dモデルを
PDF図面は、お客様が何を求めているかを見積担当者に伝えます。STEPファイルは、それにどれだけ時間がかかるかを伝えます。モデルがなければ、サイクルタイムを見積る前に誰かが形状を作り直さなければならず、それだけで1週間延びることがあります。
STEP (AP214またはAP242) と寸法入りPDFを一緒にお送りください。PDFが不要になるわけではありません。公差、データム、注記はモデルには含まれず、PDFに載っているからです。またモデルがあれば見積担当者は段取りを計画でき、多面加工の部品ではそこにコストの大半があります。 5軸加工が本当に元を取るときもご覧ください。
2. 材質は規格と調質まで指定する
「チタン」は材料仕様ではありません。「インコネル」も同じです。
規格番号、規格、調質を書いてください。Ti-6Al-4V、焼なまし材、AMS 4928準拠。Inconel 718、固溶化処理および時効処理、AMS 5663準拠。17-4 PH、H900。
調質によって、加工工程も工具も変わり、ときには価格が半分変わります。推測を強いられた見積担当者は、高めに推測するか、見積りを見送るかのどちらかです。
3. 意味のある公差
難削材の図面で最もよくあるコスト要因は、安全そうだという理由で一律に入れられた厳しい公差です。
普通公差としてISO 2768-mまたはISO 2768-fを指示し、はめあい、シール、位置決めに関わる形体だけを厳しくしてください。チタン部品では、重要でない寸法を1つ ±0.01 mmから ±0.1 mmに緩めるだけで、仕上げ工程がまるごと不要になることがあります。
図面上のすべてが重要なのであれば、その理由を書いてください。見積担当者は不確実さをリスクとして価格に反映し、リスクは高くつきます。
4. 数量と、繰り返しがあるかどうか
単品、50個、年間500個は、3つの異なる製造上の課題であり、部品単価も3通りになります。繰り返しの注文なら加工会社は治具や工具の準備を変え、それが単価に反映されます。
今回の注文数量と、想定される年間数量をお知らせください。年間数量が分からなければ、そうお書きください。それも正当な回答で、何も書かないよりずっと役に立ちます。
5. 表面粗さは面ごとに
ニッケル合金部品の全面にRa 0.8 µmを指示するのは、高額な請求書を求めるのと同じです。2つのシール面にRa 0.8 µm、それ以外はRa 3.2 µmなら、普通の部品です。
必要な面にだけ粗さを指示し、残りは普通の指示のままにしてください。
6. 熱処理と表面処理、そしてその順序
部品に熱処理がある場合は、誰が手配するのか、どの仕様を適用するのか、工程のどの段階で行うのかを書いてください。加工してから熱処理するのか、熱処理してから加工するのかで、見積りは別物になります。
アルマイト、不動態化処理、めっき、塗装も同様です。マスキングが必要な箇所があるか、外注工程を加工会社が管理するのか、お客様が管理するのかを明記してください。
7. 検査と書類の要求
見積りが知らないうちに2倍になるのはここです。事前に決めておいてください。
- 初品検査報告書と、その基準 (AS9102、または御社書式)
- 材料証明書と溶解ロットのトレーサビリティ
- 全寸法の三次元測定成績書か、重要寸法のみか
- 適合証明書
- 出荷前に御社の立会検査が必要かどうか
AS9102による完全な初品検査が必要な部品は、同じ形状で適合証明書だけの部品より、明らかに高くなります。どちらも妥当な選択です。ただ、見積りの後で決めるのは妥当ではありません。 ミルシート、溶解ロット、初品検査では、それぞれの書類が何を証明し、いくらかかるかを説明しています。
8. 納期は日付で
「至急」は情報になりません。具体的な日付があれば、加工会社は制約が設備能力なのか素材の入手なのかを伝えられます。この2つはまったく異なる方法で解決します。
難削材の素材は、目に見えない納期遅れの原因です。一般的なGrade 5チタンの丸棒や625の板材は、たいてい入手できます。ELIグレード、大径材、特殊な断面、承認済み調達先リストに載っているものは、ミルから届くまで6〜10週間かかることがあります。それは加工会社が遅いのではありません。お客様自身が顧客に納期を約束する前に知っておく価値があります。 納期を決めるのは機械ではなく素材をご覧ください。
9. インコタームズと納入先
ベトナムからのEXWとオハイオ着のDDPは、同じ金額にはなりません。どの条件で見積ってほしいか、部品をどこへ送るかをお書きください。フォワーダーが決まっていれば、その名前もお知らせください。
最初に見積られる資料
すべてを1通のメールに、ひとまとめにしてください。
- STEPファイルと寸法入りPDF
- 材質の規格番号、規格、調質
- 今回の注文数量と年間見込み数量
- 必要な納期
- 検査と書類の要求
- インコタームズと納入先
- 厳しい公差の理由を説明する、部品の機能に関する情報
お客様の手間はせいぜい15分ほど増えるだけですが、同じ図面がまったく違う価格で返ってくる理由の大半がなくなります。 同じ図面の見積りが3通りの価格で返ってくる理由もご覧ください。 見積りまでの期間が1週間短くなることも珍しくなく、どのみち同じ1週間を食いつぶしていた2〜3往復の確認メールもなくなります。
私たちがすること
図面資料が届くと、担当のエンジニアが、注文を置く前にこのリストに照らして確認します。不足があれば、確認のメールを1通だけお送りします。加工会社から直接質問が届くことはありません。お客様の相手は私たち一社です。
そのうえで、24営業時間以内に価格入りの見積りを1通でお送りします。私たちは商社なので、加工は自社で管理するネットワーク内の、お客様の合金を毎週加工している監査済み加工会社から買い付け、完成部品を私たちの見積書、注文請書、請求書でお客様に販売します。
図面を送ると、24営業時間以内に価格入りの見積りを、あるいは1週間を無駄にする前に何が足りないかを、お伝えします。